江戸時代の山深い土地に、まるで世間から忘れ去られたような小さな集落があった。
険しい山々に囲まれ、獣の鳴き声だけが響くその場所には、村人たちが寄り添うように暮らす家々が並んでいた。しかし、坂の上から少し離れた場所に、一軒だけ周囲から取り残されたように建つ土壁の家があった。
その家に住んでいたのが、カネという女だった。
年は32歳。
当時の村では、女が嫁ぐにはすでに遅い年齢だった。ましてや、カネのような女に声をかける男は一人もいなかった。
村の若い男たちはもちろん、妻を亡くして一人で暮らす年配の男でさえ、彼女を見ると視線を逸らした。
理由は簡単だった。
カネの体は、普通の女とはあまりにも違っていたからだ。
同じ年頃の女たちが山へ行き、春の草花を摘んで帰る頃、カネは一人で大きな薪を背負って歩いていた。
他の女が軽い草履を一足履けば十分な道でも、彼女は足が大きすぎて特別に作った草履を履かなければならなかった。
頬は大きく膨らみ、小さな目はその影に隠れるほどだった。
歩けば地面が揺れるように見え、村人たちは陰で彼女をこう呼んだ。
「まるで熊じゃないか」
「女というより山の獣だ」
そんな言葉が、カネの耳に届かない日はなかった。
しかし、彼女は言い返すことも、怒ることもなかった。
ただ静かに頭を下げ、聞こえなかったふりをした。
本当は、その言葉の一つ一つが胸に深く刺さっていた。
カネにとって、この大きな体は神から与えられた罰のように感じられていた。
誰かに愛されることも、妻になることも、母になることも、自分には決して許されない夢なのだと思っていた。
だから昼間、人の目がある時間には外へ出なかった。
日が沈み、村人たちが家の中へ戻る頃になると、カネはようやく戸を開けた。
まるで人に見つからないようにする野良猫のように、静かに井戸へ向かう。
だが、誰も知らなかった。
その大きな体の奥には、誰よりも優しい心が宿っていたことを。
カネは道端に咲く小さな花を踏むことさえできなかった。
山道で傷ついた鳥を見つければ、自分の食べ物を分け与えた。
弱いものを見ると放っておけない。
それほどまでに、彼女の心は温かかった。
そして、そんなカネには誰にも言えない小さな楽しみがあった。
村外れに住む木こり、万蔵の家を遠くから眺めることだった。
万蔵は貧しい木こりだった。
しかし、彼の家にはいつも笑い声があった。
妻と三人の子供たち。
10歳の鉄吉。
8歳のおはる。
そしてまだ幼い赤子。
貧しい暮らしでも、家族はいつも寄り添っていた。
縁側で芋を分け合いながら笑う姿。
父親の帰りを待つ子供たちの姿。
その光景は、カネにとって何より眩しいものだった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=nAbYAnL75Oo&pp=ygUS5pel5pys44Gu54mp6Kqe44KK,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]